12月 06, 2022

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過渡応答には2種類あります。まず、負荷過渡応答とは、LDO(リニアドロップアウト)レギュレータが供給する負荷電流が変化したときに、LDO出力でオーバシュートまたはアンダシュートが発生することです。次に、ライン過渡応答とは、LDOの入力に接続された電圧が変化したときに、出力に異なる形状でオーバシュートやアンダシュートが発生することです。

 


図1. 出力でアンダシュートが発生するLDOの内部構造

figure_ldo_dynamic_performance1

 

LDOの出力でアンダシュートが発生したときに、LDO内部で何が起こるのか見てみましょう。図1は、出力電圧が1Vで過渡応答アンダシュートが0.02Vの時のLDO内部構造を示しており、出力電圧は0.98Vに低下します。基準電圧が1Vで安定すると、エラーアンプの入力間に0.02Vの電圧差が生じます。アンプはその電圧を増幅するため、エラーアンプの出力電圧VAMPが低下します。つまり、PMOSパスデバイスのVGSが上昇し、PMOSパスデバイスは出力コンデンサを充電するために、チャネルをさらに開き始めます。そのため、LDOの出力電圧は1Vまで上昇し始めます。


figure_ldo_dynamic_performance2


図2. 出力でオーバシュートが発生するLDOの内部構造

 

LDOの出力がオーバシュートする場合(図2)は、アンダシュートの状況とは逆です。オーバシュートが0.02Vなので、出力電圧は1.02Vとなり,エラーアンプの入力間に-0.02Vの電圧差が生じます。エラーアンプはこの電圧を再び増幅し、エラーアンプの出力電圧VAMPが上昇し、PMOSパスデバイスの電圧VGSは低下する、つまりPMOSパスデバイスがチャネルを閉じ始めることを意味します。ただし、出力コンデンサが放電した時にオーバシュート出力電圧が1Vに戻った場合は、パスデバイスで出力コンデンサを充電できます。

 


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図3. アンダシュートおよびオーバシュート時のLDO内部の動作

 

図3は、アンダシュートおよびオーバシュート時の負荷過渡応答とLDO内部の動作を説明したもので、アンダシュート時にはパスデバイスがより大きく開き、オーバシュート時には閉じることが分かります。このフィードバック動作は、負荷過渡応答でもライン過渡応答でも同じですが、アンダシュートまたはオーバシュートの原因によって異なります。オーバシュートの振幅とセトリング時間は、過渡現象(入力電圧や負荷電流の変化)に対して、内部フィードバックがどれだけ速く反応できるかで決まります。

 


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図4. NCP110の負荷過渡応答

 

図4はNCP110の負荷過渡応答の測定結果で、大電流への負荷変化時に出力電圧が低下しています。しばらくすると、内部フィードバックがアンダシュートに反応して、PMOSパスデバイスを開きます。負荷が非常に低いレベル、例えば1mAなどに変化すると、内部フィードバックがPMOSパスデバイスを閉じてこれに応答します。するとオーバシュートが発生して、出力コンデンサが放電されます。

 


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5. NCP110のライン過渡応答

 

図5にライン過渡応答を示します。アンダシュートとオーバシュートは、負荷電流が変化しないため同じ形状です。そのため、出力コンデンサの放電が長引くことはありません。負荷過渡応答と同様に、PMOSパスデバイスが開閉して応答します。

NMOSパスデバイスを使用したLDOにも同様の原理を適用できます。PMOSパスデバイスを使用したLDOは、ゲート-ソース間電圧VGSが入力電圧VINの逆方向を、NMOSパスデバイスを使用したLDOは、ゲート-ソース間電圧VGSが出力電圧VOUTの逆方向を向きます。そのため、NMOSパスデバイスをより大きく開く必要がある場合、エラーアンプの出力電圧VAMPは上昇します。NMOSパスデバイスを閉じる必要がある場合、エラーアンプの出力電圧VAMPは低下し、PMOSパスデバイスを使用したLDOとはまったく正反対になります。

オンセミのLDOの詳細については、こちらをご覧ください。