今日、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのバンドギャップ半導体が注目を集めています。しかし、これらが登場する前は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)がパワーエレクトロニクスの主力製品でした。このブログでは、これらの多用途デバイスの将来がどうなるかを簡単に考察しますが、その前にIGBTがその価値を証明し続けているいくつかのアプリケーションを紹介します。
溶接機
最新の溶接機の多くは、DC出力電流により、精度の高い溶接プロセス制御が可能であるため、溶接変圧器の代わりにインバータを使用しています。その他の長所は、DC電流がAC電流よりも安全であり、インバータベースの溶接機は電力密度が高いため軽量である点です。
図1:溶接機のブロック図
溶接インバータの一般的なスイッチングトポロジには、フルブリッジ、ハーフブリッジ、ダブルスイッチフォワードがあり、定電流制御方式が一般的です。フルブリッジおよびハーフブリッジトポロジのIGBTスイッチング周波数は、通常20~50 kHzです。
図2:溶接用フルブリッジ、ハーフブリッジ、およびダブルスイッチ・フォワードトポロジのIGBT
IH調理器
IHコンロの調理では、ワイヤのコイルを励起して、高透磁率の材料で作られた鍋内で電流を強制的に循環させます。次に、インバータが銅コイルに電流を誘導し、電磁場を生成します。このように、鍋を貫通して電流が発生し、鍋が加熱されます。
図3:IHコンロのブロック図
IHコンロの必須要件は以下のとおりです。
共振タンクに基づくトポロジは、効率を損なうことなく高周波でスイッチングできる利点があるため、最も広く使用されています。その中でも、共振ハーフブリッジ(RHB)コンバータと疑似共振(QR)インバータが最も一般的です。RHBの利点は、負荷動作範囲が広く、最大電力を供給できることです。一方、QRは低コストなので、低出力から中出力範囲(最大2kWのピーク出力)に最適です。
図4:RHBおよびQRトポロジ
モータドライブ
ハーフブリッジコンバータ(HB)は、2kHz~15kHzの範囲で使用されるモータ駆動アプリケーションの中で、最も一般的なトポロジの1つです。
図5:正および負の出力電流の流れを示すハーフブリッジトポロジ
ただし、この高速スイッチングトポロジには、以下のような制限があります。
- 出力電圧レベルは2つだけ
- 受動部品と能動部品へのストレス
- スイッチング損失が高い
- ゲートドライブがより困難
- リップル電流が大きくなる
- EMIが高くなる
- 電圧処理(高電圧バスでは動作不可)
- デバイスの直列接続により実装が複雑になる
- 熱バランスの達成が困難
- フィルタリング要件が厳しい
新しいIGBTトポロジ
無停電電源装置(UPS)やソーラーインバータなどのアプリケーションの場合、これらの制限を克服するために、マルチ電圧レベルの新しいトポロジが設計されています。最も一般的な構造は、より高いバス電圧で動作できるユニポーラスイッチングIタイプおよびTタイプコンバータです。さらに、出力状態が増えるとフィルタ両端の電圧が低下するため、より小型のコンポーネントを使用できるようになります。これらのトポロジは、より高い周波数(16kHz~40kHz)に適しており、スイッチング損失が低いため、優れた効率(約98%)を実現します。
図6:IタイプおよびTタイプのコンバータトポロジ
IGBTの将来は?
IGBTはかなり以前から存在しており、今でも多くの高電圧および高電流アプリケーションに最適です。しかし、その利用は古典的な設計に限定されず、新しい設計に取り入れられることも増えています。この理由は、最近のデバイスは、電流密度の増加とスイッチング損失の減少により、Vcesatがこれまで以上に低くなる(1Vに向けて)新しい構造を備えているためです。IGBTの使用による利点を最大限に生かすには、アプリケーションの要件を理解し、正しい回路トポロジを選択することが重要です。
オンセミは、業界をリードする性能を備え、伝導損失とスイッチング損失を抑えた1200 VトレンチフィールドストップVII (FS7) IGBTを発表しました。
この新しい1200 Vデバイスは、市場最高レベルの伝導性能とスイッチング性能を提供します。FGY75T120SWDは、現在入手可能な1200 V IGBTの中で最高のスイッチング性能を備えたデバイスの1つです。FGY100T120RWDは、100 Aの定格電流時に1.45 Vという低いVcesatを示し、前世代のデバイスと比べて0.4 V向上しています。この新しいデバイスは、高速スイッチングアプリケーションでの効率向上を目的とし、おもにソーラーインバータ、無停電電源装置(UPS)、エネルギー貯蔵、およびEV充電電力変換などのエネルギーインフラ・アプリケーションで使用されます。新しい1200 VトレンチフィールドストップVII (FS7) IGBTは、高スイッチング周波数のエネルギーインフラ・アプリケーションでAC出力を供給するインバータだけでなく、入力を高電圧に昇圧(昇圧ステージ)するためにも使用されます。FS7デバイスはスイッチング損失が小さいため、高いスイッチング周波数での動作が可能で、磁気部品が小型化できるため、電力密度の向上とシステムコストの削減が実現します。高出力のエネルギーインフラ・アプリケーションの場合、FS7デバイスの正温度係数によって、容易に並列動作が可能になります。
図7:1200 VトレンチフィールドストップVII (FS7) IGBT
オンセミのIGBTおよびIGBTゲートドライバの詳細をご覧ください。