自動車業界は、技術の進歩とエレクトロニクスによりエコシステムとバリューチェーンを変革する、魅力的な時代に突入しています。自動車は、単にA地点からB地点へ移動するための道具から、インテリジェントで完全なコネクティッド・ハブへと根本的に変化しており、消費者にはさまざまな新しい体験、自動車メーカーやサービスプロバイダには新しいマネタイズの機会が提供されるようになります。Wi-Fiは、世界規模で自動車の変革を推進するために不可欠な存在となるでしょう。
インテリジェント・カーにはコネクティビティが必要
自動車メーカーにとって、コネクティビティは非常に重要なポイントとなっています。今日の自動車は高度なインテリジェンスを備え、多数のセンサから大量のデータを収集し、その使用方法、場所、周囲の状況を示します。クラウドにアップロードされた大量のテレマティクスデータによって、自動車メーカーはエンジン性能パラメータ、ブレーキやステアリングシステム、エネルギー効率を分析し、次世代製品の開発に役立てることができます。自動車メーカーは、サラウンドビューカメラやLiDAR検出器などの車外センサから収集したデータを分析し、リアルタイムの交通状況、ロードサイドアシスタンス、トラベルコンシェルジュなど、よりサービス志向でパーソナライズされたプレミアムサービスパッケージを提供できます。
車載コネクティビティは、差別化された消費者体験を推進する上で重要な役割を果たします。次世代のインフォテインメントシステムやデジタル・コックピットは、豊富なコンテンツとサービスを備えた、よりソーシャルでコネクテッドな空間として生まれ変わろうとしています。消費者のユースケースの進化に合わせてソフトウェアを頻繁にアップグレードするためには、より高い帯域幅と低いレイテンシを備えた堅牢な接続性が必要です。McKinseyが実施した2020年の自動運転、接続性、電動化、共有モビリティ（ACES）調査では、37%の消費者が接続性の向上を求めて自動車ブランドを乗り換えると回答しています。この数値は国によってはさらに高く、例えば中国では56%にのぼります。
現在、多くのプレミアムカーには、車両や乗客のデバイスをクラウドに接続するためのWi-Fi 5がすでに搭載されています。新しいトレンドと価値提案を念頭に、自動車メーカーは最新のWi-Fi 6およびWi-Fi 6Eインフォテインメントとテレマティクスシステムを追加し、将来を見据え、自動車のライフサイクルを通じたデジタル変革やサービス需要に対応するようになってきているのです。
Wi-Fi 6およびWi-Fi 6Eの導入とメリット
今日、コネクテッドカーは1時間あたり約25ギガバイト（GB）のデータを生成しています。インテリジェンスのレベルがより高い自律性に移行し、センサの数が急速に増加すると、1日に生成されるデータ量は乗用車の5～10テラバイト（TB）から、自動運転タクシーの場合は1日あたり数百TBにも達します。このデータのかなりの部分が、推論や分析のためにクラウドにアップロードされることになります。そこで、ユビキタスで広帯域、かつコスト効率の高い接続性を提供するWi-Fi 6とWi-Fi 6Eの出番となります。
Wi-Fi 6は、2019年の最初のリリース以来、かなりの市場導入が進んでおり、今年は約23億台のデバイスの出荷が見込まれています。自動車の開発サイクルと寿命が長いことから、自動車メーカーは最新のWi-Fi技術を追加することをますます求めています。Wi-Fi 6Eには、コネクテッドカーに大きな利益をもたらす拡張機能が搭載されています。
- トライバンド機能： 6GHz帯は、2.4GHz帯と5GHz帯の2倍の周波数帯を持ち、80メガヘルツ（MHz）チャンネルが14個、160MHzチャンネルが7個追加されており、現在のWi-Fiネットワークが抱える混雑問題を本質的に解決しています。コネクテッドカーは、家庭や企業のネットワーク、電気自動車（EV）の充電ステーションに接続し、その場所で最適な接続を行うことができるようになります。これにより、何テラバイトものテレマティクスデータのアップロードや新しいファームウェアのダウンロードを、干渉やネットワークの混雑なしに、より高速で行うことができるようになります。
- 160MHzの広帯域チャネル：160 MHzのWi-Fi 6Eは、2x2 MIMO構成で2.4ギガバイト／秒（Gbps）の速度を達成し、外部のWi-Fi 6Eネットワークに接続すると2.5倍高速になります。車内でホットスポットとしてコンテンツを配信するインフォテインメントシステムでは、160MHzのシングルストリームネットワークでも1.2Gbpsの容量を提供でき、複数の乗客デバイス、リアシートディスプレイ、無線カメラなどを同時に提供するには十分すぎるほどの容量があります。これにより、次世代ニーズに対応しながら、無線サブシステムの複雑さとコスト構造を大幅に削減することができます。
- 高度な直交振幅変調（QAM）による高速化：Wi-Fi 6およびWi-Fi 6Eでは、2.4GHz、5GHz、6GHzの3つの帯域すべてにおいて、より高度な変調方式が適用されています。前述の通り、5GHzと6GHzの通信速度はWi-Fi 5の2.5倍となっています。また、Wi-Fi 6では、アドバンストQAMにより2.4GHz帯の速度と容量が約2倍に強化されています。高速化は、一定量のデータ転送に対する通信時間の短縮を意味し、消費電力の低減につながります。
- 拡張された通信距離：Wi-Fi 6およびWi-Fi 6Eは、Wi-Fi CERTIFIED 6 Release 2の一部として、より堅牢なパケット構造を持つレンジ拡張機能を搭載しています。この新しい機能により、すべてのMCS（Modulation and Coding Scheme）レートにおいて、通信範囲が拡大されます。コネクテッドカーが外部Wi-Fiインフラを活用してデータをアップロードすることが増えているため、自動車メーカーはアップリンク拡張レンジ機能を活用して接続リンクのパフォーマンスを向上できます。
- 低レイテンシ：現在、6GHz帯にアクセスできるのはWi-Fi 6Eデバイスのみです。したがって、6GHz帯は、低レイテンシでタイミングが重要なアプリケーション向けに予約された、より効率的なプロトコルによるグリーンフィールドとして利用されます。自動車メーカーは、インフォテインメントシステムにWi-Fi 6Eを導入することで、リッチ・マルチメディアやゲーム・サービス、Carplayなどの電話接続において、より優れたユーザー体験を訴求できます。
バリューチェーンとマネタイズの変革
インテリジェントなコネクテッドカーは、自動車メーカーと消費者に恩恵をもたらすだけでなく、バリューチェーンにおけるさらなるパートナーに利益をもたらします。
- 保険会社は自動車メーカーと提携し、ルート選択、ブレーキパターン、走行時間などの運転行動に基づき、個々のドライバーに合わせた保険を提供できます。保険会社は、膨大な量のクラウドデータと高度なアルゴリズムを活用して、保険リスクを分析し、革新的なソリューションを提供していきます。
- EV充電の普及に伴い、自動車メーカーはEV充電プロバイダと提携し、車の充電中やWi-FiでEV充電ネットワークに接続している間に、リッチなクラウドサービスを提供できるようになります。
データ分析を備えたコネクテッド車両により、自動車メーカーが従来の手段を超えた新たなパートナーシップやマネタイズの機会を得る可能性は無限にあります。
コネクティビティは、どの自動車メーカーにとっても、ますます主要な機能になっています。消費者は、車内でも、自宅の駐車場でも、EV充電ステーションでの待ち時間でも、どこでも接続され、シームレスなサービスにアクセスできることを期待しています。Wi-Fiはどこにでもあり、自動車メーカーが差別化を図り、新たな収益源を確保するために、最も強固で費用対効果の高い接続技術であり続けています。
